製法・構造などのお話
タイトルにある製法・構造について、過去に何度かかいつまんで書いたことがありましたが、もう一度纏めてみようと思います。
先ずボディ材ですが、当工房ではボディにバルサを使用しております。
これはホームセンターで売られているものを実際に手に取って、肌・質感・硬さ・重さを確認して選んでいます。
メーカーから大量購入して不要な部位を破棄する、というのは無駄が多すぎるので、たぶん工房の規模が大きくなったとしてもすることは無いと思います。
また、バルサは一枚の板であっても部位によって極端に硬さ・重さ・比重(この場合ほぼ同義)が違うことが多々あるので、輪郭を切り出した際に、軽すぎたり重すぎたりするものは実験用にして、良い部分を製品に使っています。
最近のバルサシートは厚みの寸法が大きくバラついていることが多いので、輪郭を切った段階でクランクのサイズに関わらずノーズ・ベリー・バック・テールの4か所でノギスで計測、貼り合わせたのちに外側から既定の寸法に追い込みます。
ウエイトは今のところ鉛のみですが、ラトルボールはスチールと鉛の2種類あり、CATHERINE75HT、75HT-DRに使用しているものはスチールです。
注)ボディに水分が侵入すると錆びて固着しますので、ご注意ください。
ワイヤーはほとんどがΦ0.9の軟質ステンレスですが、モデルによってアイの付け根に強度が必要と判断したものはアイの付け根を4回ほど密にツイストし、加工硬化を利用して強度を上げてあります。
また、基本的にワイヤースルーになっており、SRモデルの各アイはすべて繋がっています。
MR/DRモデルは前後のフックアイが内部で繋がっているので、高加重時や経年劣化で抜けることはありません。
バルサの話に戻ってしまいますが、MR/DRモデルも前述のワイヤーやラトルチャンバーが入ることも踏まえて、強度アップの為にMR/DRモデルにおいても非常に手間のかかる『貼り合わせ』で製作しております。
内部のワイヤーの溝も指示線に乗るかたちで、精度を落とさないように掘り、内部のパーツを入れてボディを合わせたときに、浮いたりズレたりしないようにします。(ワイヤー自体の加工精度が重要)
ボディ加工時、テールのテーパーや角を落とした際に、その都度ダイヤモンドヤスリで切削面をきれいに均し、精度の向上を図っています。
ボディのRは8角形→16角形→32角形と進め、64角形(ほぼ曲面ですが)でカッターによる中仕上げ、サンドペーパーで仕上げます。
サンドペーパーの番手はバルサの目や肌に合わせて変えています。(ほとんど無意識)
よく毛羽立つときは耐水ペーパーの#2000をドライで使うこともあります。
貼り合わせには2液混合のエポキシ接着剤を使用、圧着します。
圧着することでエポキシが杢目に食い込み、ボディの中心に面で構成された頑強な背骨を作りつつ、余分なエポキシを合わせ目から排出してウエイトの不要な増加を防ぎます。
この『貼り合わせ』という工法ですが、手作業で高精度を目指し始めるととんでもなく手間も時間もかかり、価格に反映せざるを得ないところもありますが、前述のとおり非常に頑強なボディになります。
余談ですが、手元に残っている30数年前に作った7㎝ミノーもまったく問題なく日々の酷使に耐えるレベルです。
ここからコーティングになります。
コーティングには下地に硬質ウレタン(硬度H)を、トップコートにはロッドメーカーやロッドビルダーが使用する2液混合エポキシ(筆塗り)を使用しています。
下地のウレタンは強度・弾力・作業性の向上・積層時のボディ形状の反映率・コストダウンを鑑みた結果選んだものです。
これをクリアラッカーの含浸塗装などを排除して一層目からディッピングします。
レスポンスの元となるバルサを極力 樹脂化しないためです。
塗装後は2液混合のエポキシを2層、筆でコーティングします。
ここで全モデル リップを取り付けます。
接着は低粘度瞬間接着剤、もしくはこれにエポキシ接着剤を併用して、特にリップにラインアイがあるものは負荷がかかっても外れないようにしっかり固定します。
リップが固定されたら同じエポキシで最終コーティング(計3層)です。
エポキシコーティングは、コストが嵩む最大の要因になりますが、高品質なものは非常に硬い皮膜になり、ルアーの寿命を延ばしてくれます。
また、透明度が高いので、塗装の色を沈ませず、長期間にわたって黄変しにくい特性があります。
現在、硬度の高いものと、やや弾力のあるものをモデルによって使い分けております。
ここで膜厚がけっこうなものになるので重量増によるレスポンスの低下が発生するのではないかという疑問が出ると思いますが、設計の段階でこれも含めて考えているのと、ハイピッチモデルであってもシャープすぎて角のある動きを排除する意味も兼ねているので大丈夫です。
塗る手間(特に時間)や材料費を考えるとデメリットが目立つエポキシですが、私は先に述べたメリットを重要視し、30数年間エポキシを使っています。
※エポキシは熱に弱いので真夏の炎天下は要注意です。
あとはフックを付て完成、スイムテストをクリアすればお客様のところへと旅立っていきます。
ざっと材料や製作手順を書きましたが、モデルによってそれぞれもういくつか手間がかかったり(MR/DRモデル全部)、常時寸法管理が必要なもの(FLシリーズ)があったりもします。
寸法管理をしていても最後にエポキシを筆で塗るので最後でバラつきが出るんじゃないかと思った方は鋭いです(笑)
バラつきが出ないとは言えませんが、これはもう慣れの問題なので、コーティングの重量差で大きくバラつくことはありませんし、ましてやNG品を出すということはまずありませんのでご安心を。
ここに列挙したのは一点モノを派手な技法や技術で作るのではなく、モノづくりの基本を丁寧に積み重ねて、『確実に機能し、結果を出せる道具を作る』といったものなので、文面も非常に地味な印象だと思いますが、繰り返し言うように、私は人ではなく魚が釣れるルアーを作りたいのです。
なにせ自分が釣りたいので(笑)
市販のルアーで思った表現ができない、こんなルアーでこうすれば釣っていた自信もある、自分が知る限りなさそうなので探すより作ったほうが早い、というのが原点です。
ルアーを作ってみたいからルアー作りを始めた、自分の作ったルアーで釣れたら楽しいだろうな、というのは不思議なことに最初から無く、『正確にイメージ出来るものは必ず作れるし、それが出来たら釣れるに決まってる(見た目は何個か作ったらどうにかなるやろ)』というスタートラインで、ルアー作りの楽しみはかなり後になって出てきたものです。
そんなことより1匹でも多くバスが釣りたかったので、自作ルアーでの最初の1匹も覚えておらず、その当時 釣れたのは嬉しくても自作ルアーでという部分は感動を覚えるよりも『自分用に作ったんだから釣れて当たり前』『これで釣れなかったら時間とお金の無駄遣い』というヒネクレた中学生でした(笑)
このあたり、30数年経った今も変わっていないので、ある意味幸せな奴なのかもしれません(笑)
最後で脱線しましたが(笑)、バルサを削り始めた最初の日からずっと『釣るため』に続けてきた積み重ねです。
モノ作り屋にとって大事なのは技術とそれを支える理論、そして対価を頂戴する仕事であるならば何よりも結果です。
自分にとって偶然ピッタリ嵌まったのがルアーで、技術や理論、結果が形になったのがI工房のルアー達です。
今回は脱線しつつも簡単にではありますが、製作手順などを書いてみました。
最後までお付き合いいただいてありがとうございます。
それでは皆さん良い釣りを(o^-')b
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